2019.05.24

三重大学における「社会人と大学生のための科学的地域環境人材育成事業・サイレッツ」の概要紹介

 三重大学は,2016年4月より文部科学省の予算交付を受け,社会人と大学生を対象とした環境学習・到達度認証システムである「科学的地域環境人材(Scientific, Local and environmental “talented staff”:SciLets = サイレッツ)育成事業」を開始しました。本事業が主に想定する対象は,企業や行政で環境政策に対応する人材であり,近年の「組織の社会的責任」を重視する傾向の下に,新人の環境分野における初任者教育なども想定する,初級から中級のレベルの環境教育を実施することを目指しています。当然,明日の社会人である大学など高等教育機関の学生も受講できます。

 実際に受講者を受け入れ始めたのは2017年4月からであり,現在は主に三重県域の地域環境人材の育成に力を入れていますが,“Think globally, act locally”と同様に有意義な“Think locally, act globally”の発想により,今後はより広く,国内外での活動も目指していきたいと思います。

 

 

 本人材育成システムの特徴は,「環境」というテーマについて,受講者には極力幅広い視点で問題を把握してもらうことに重点を置きます。確かに企業・行政などの現場では,既に実務的な経験や学習を経て各自担当する領域における専門家は多いですが,環境問題を正しく理解し,さらに適切に対応・対処するためには,幅広い環境の全体的な知識を身につけている必要があります。そこで本人材育成システムでは,受講科目群として「環境問題・環境評価法」,「エネルギー技術」,「環境配慮技術」,「環境管理・ESD・SDGs」,「環境関連法・行政」,「環境経済・経営,ESG」,「コミュニティ&インバウンド」,「大気・水と食の健康リスク」,「自然環境保護・生物多様性」および「気候変動問題」の10領域を環境の基礎分野と位置付け,その「概論」を必修科目とします(図1の中心部)。

図1地域環境科学分野と各受講者の進展度評価例(各講義の受講により10pt〔ポイント〕付与)

 主な対象が社会人であることを考慮し,講義は自宅からでもアクセスできるインターネット・ストリーミングサーバー上に保管したビデオ講義により行います。各ビデオ講義はサイレッツと名付けた専用のe-Learning(Moodle)サイトからアクセスする1科目あたり90分の講義で,それぞれ約45分ずつの2つのパートに区分けされており,受講者は各パートの最後に理解度確認テストを受験し,その結果は8割以上の正解で合格となります。

受講申し込み,ビデオ講義の受講,理解度確認テストの受験のすべてをオンラインで行うことができますが,講義資料(印刷物)の送付のみは郵送等で行います。

 ここで,各分野90分で十分なのか,あるいは受講者の学習意欲を満たすことができるのか,といった疑問が生ずるかもしれませんが,実はこの仕組み(サイレッツ育成事業)には卒業や修了といった概念がありません。上記10分野の「概論」(必修科目)のほかに,各自興味がある分野の「選択科目」を最低4科目,合計14科目のビデオ講義を受講し,それぞれの理解度確認テストに合格すると,受講者はその時点でサイレッツ・アナリストの認定を得ることができます。

 選択科目には,サイレッツのような大学発の環境教育の特色が現れています。本事業の主な講義作成者である大学教員は,通常,狭く深い専門領域の研究を行っているので,受講者はその専門領域の一端に触れることができ,刻々と変化し進化している環境をめぐる世界情勢や情報,あるいは環境技術を学ぶことができます。従って,特に受講科目数に制限が設けられていない選択科目を必要に応じて受講することにより,受講者には興味に即した,また時宜にかなった学習を継続していただくことができます。

 サイレッツ育成事業は基本的に数値的なうことができる気候変動問題などの環境問題を主なテーマとしていますが,その中にSDGsを解説・普及するテーマを含んでいます。

 逆にこの事業をSDGsのターゲットとの整合の面から見てみると次のようになりますので,大学のホームページで公表しています。

http://www.gecer.mie-u.ac.jp/sdgs.html#sdgs_scilets


【1】地域の環境を保全し、地域に多く賦存する環境価値を利活用して地域の活性化を図る。
 

 

 

 

(ターゲット:13.3)気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。


【2】地域活性を図るために、本学の学生に留まらず、企業・自治体の環境担当者や社会人を対象にした環境に関する質の高い科学的教育をe-learning の仕組みを取り入れて展開する。

(ターゲット: 4.7)2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

(ターゲット:13.3)気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。


【3】三重大学を一つの地域拠点として、この仕組みを同じような国内他地域の高等教育機関に広めると共に、発展途上国やその他の国々の高等教育機関にも拡大するためのグローバル組織を構築する。(SciLets GO)

(ターゲット:4.3)2030年までに、すべての人々が男女の区別なく、手の届く質の高い技術教育・職業教育及び大学を含む高等教育への平等なアクセスを得られるようにする。

(ターゲット:4.5)2030年までに、教育におけるジェンダー格差を無くし、障害者、先住民及び脆弱な立場にある子どもなど、脆弱層があらゆるレベルの教育や職業訓練に平等にアクセス
できるようにする。


 次回は,サイレッツのビデオ講義がどのようにSDGsと関連しているか,お知らせします。