2023.03.02

東京都立大学大学院理学研究科の水口佳一准教授、栗田玲教授らが研究発表「ハイエントロピー超伝導体の乱れと原子振動、電子状態を解明~高圧下で発現する特異な超伝導状態の起源に迫る~」を公開しました。

1.概要

東京都立大学大学院理学研究科の水口佳一准教授、栗田玲教授、島根大学総合理工学部の臼井秀知助教、東京大学生産技術研究所の高江恭平特任講師、北海道大学大学院工学研究院の三浦章准教授、広島大学先進理工系科学研究科の森吉千佳子教授らの研究グループは、超伝導体や熱電材料として注目されているハイエントロピー型金属テルライドの局所構造乱れ、原子振動特性、電子状態を解明しました。ハイエントロピー型金属テルライドは高い熱電性能を示すことや、高圧下で特異な超伝導特性が発現する新機能性材料です。ハイエントロピー化合物では、原子サイトに異なる元素が多数固溶するため、局所的な構造乱れの導入が想定されますが、乱れによる原子振動や電子状態の変調は明らかになっていませんでした。同グループは、放射光X線回折によってハイエントロピー金属テルライドにおける局所構造乱れを実験的に確認し、またMDシミュレーションと第一原理計算から、ガラスに近い原子振動特性とぼやけた電子状態が発現していることを明らかにしました。本研究成果は、ハイエントロピー超伝導体の新物質開発や特性の理解を促進し、また熱電材料を含めた様々なハイエントロピー機能性材料の開発に有用な指針を与えるものです。
本成果はElsevierの英語論文誌「Materials Today Physics」に2023年2月15日に掲載されました。本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(21H00151, 20H01874, 20H05619)、東京都高度研究(H31-1)などの支援を受けて実施しました。

2.ポイント

  • ハイエントロピー金属テルライドは高圧下で超伝導転移温度が変化しない特異な性質を示す。
  • 放射光X線回折によってハイエントロピー金属テルライドの局所構造乱れを実験的に確認。
  • MDシミュレーションおよび第一原理計算から、ハイエントロピー金属テルライドにおけるガラスで見られるような原子振動特性とぼやけた電子状態の発現を解明。

3.研究の意義と波及効果

ハイエントロピー化合物は2000年代以降に研究が始まった新規分野です。これまでの研究では、多元素固溶が原子振動特性や電子状態にどのような影響を及ぼすかが未解明でした。本研究では、ハイエントロピー化による局所乱れの導入が実際に生じていることを確認し、また、乱れによって特異な超伝導状態が発現することを見出しました。MDシミュレーションおよび第一原理計算によって、ハイエントロピー化合物が特異な原子振動特性と電子状態を持つことを理論的に示しました。本研究の成果は、超伝導体のみならず熱電材料をはじめとした様々なハイエントロピー機能性材料の設計および理解に重要な知見であり、今後の新物質開発に指針を与えるものです。

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詳細は以下のWebサイトからご覧ください。

https://www.tmu.ac.jp/news/topics/35461.html