誰が貧しい人々を代弁するか、なぜそれが重要なのか

「市民社会セレクション」の中身を見ると、そこにいる代弁者らの圧倒的多数はNGOの代表者であることがわかる。彼らの多くは重要な価値観や立場を明確に主張できる人たちではあるが、MDG目標に最も直接的に関係する人々を代弁する権限はない。

ノーラ・マッキーオン NORA McKEON
国連‐市民社会関係政策アドバイザー

『UNクロニクル』は創刊以来、さまざまな意見に耳を傾ける懐の深い雑誌に発展してきた。各号で気候変動や軍縮などの特定の問題を特集することで、それぞれの問題を多様な視点から検証することが可能になっている。地理的に幅広い視点が取り入れられていることは、執筆陣の顔ぶれに明らかだ。最近の号には学術研究者、国連職員、政府関係者、非政府組織(NGO)が記事を寄せており、つい先頃は小説家による奇想を凝らした革新的な証言が掲載された。しかし、ここに大きく欠けているのは、議論のテーマである問題に最も影響を受ける人々を直接代表する草の根レベルの組織の声である。

驚くことではないが、こうした声は、ミレニアム開発目標(MDGs)をめぐる現在の議論にもほとんど反映されていない。市民社会はこれらの目標の基盤となった1990年代の主要なサミットには熱心に参加したにもかかわらず、10年前のMDGs策定プロセスからは排除された。ミレニアムサミットへの市民社会の参加は名ばかりで、それに続く2005年のミレニアム+5サミットでも、その3カ月前には市民社会と国連総会との双方向対話が実施されたものの、本会議への参加はやはり形だけであった。2010年はやや状況が好転しており、9月20~22日のMDGサミット円卓会議には選ばれた市民社会の代表が出席し、6月14~15日の双方向対話の結果がサミット成果文書の作成に向けた正式な意見として考慮された。しかし、そこに参加した「市民社会セレクション」の中身を見ると、そこにいる代弁者らの圧倒的多数はNGOの代表者であることがわかる。彼らの多くは重要な価値観や立場を明確に主張できる人たちではあるが、MDGsに最も直接的に関係する人々を代弁する権限はない。今年の双方向対話で発言した52名のうち45名はNGOの代表で、住民組織の代表は7名のみだった。うち5名は農村部の先住民族女性、1名は国際労働組合、1名は障害者団体の代表である。

「正しい」見解が表明される限りは、誰が発言しようと構わないではないかと思われるかもしれない。だが、誰が発言するかが重要である理由の一つは、他者を代弁する責任を進んで引き受ける人は、どれほどの善意があっても誤解をしてしまう場合が少なくないことだ。国際的なNGOの主張内容には、彼らがその運動において「代弁している」はずの住民集団の問題意識とは相いれない概念が含まれている場合もあり、必ずしもそうした当事者集団と協議しているわけでもない(i)。もう一つの理由は、貧困、飢餓、女性に対する暴力に最も影響を受ける人々は問題の被害者であるだけでなく、解決策を見つけるにあたっての主役でもあるという点だ。困難に対処するために彼らが練り出してきた行動は、しばしば代替的な解決策の出発点になる。スラム居住者の国際ネットワーク組織「Shack/Slum Dwellers International」のコミュニティメンバーらによって推進された貧困者向け住宅などがその一例だ。さらにもう一つの理由として、住民組織は変革への政治的意志を結集し、経済的利益という高圧的で超大な暴君への抵抗を動員するための鍵である。西アフリカ諸国では小規模農家が有権者の大半を占めるが、彼らの声はこれまで何十年もの間無視されてきた。しかし、こうした人々がおよそ5000万人の農民を代表する「西アフリカ農民・農産物生産者組織ネットワーク(ROPPA)」を組織したことにより、彼らを敵に回すより味方につけたほうがよいと気づいた各国政府は、外部から押し付けられる支援条件に敢然と立ち向かい始めている(ii)。住民組織は、潘基文国連事務総長の言う「責任を問われない時代」に警鐘を鳴らし、新たな「説明責任の時代」を導くにあたって基本的な役割を担うのである。

住民組織に自らを代弁する力を与えることが本当に重要だとすれば、国連の文脈においてこれを実現するには何が必要だろうか? まず必要なステップの一つは、世界の周辺地域のあちこちに散在し、必ずしも英語を話せず、インターネットの常時接続もあるとは限らないが、意思決定の前には必ず地元住民と協議することに重点を置く組織を相手に意味のある対話をするための必要条件を尊重することである。その要件には、戦略的な情報を組織やそのメンバーが利用可能な形でタイムリーに入手できるようにすること、自ら組織を作り、代弁者を自ら選ぶ権利を認めること、地元の言語、課題、時間的な制約、協議慣習を尊重すること、これらの要件を満たすのに必要なリソースを動員することなどがある(iii)。二つ目のステップは、国連のグローバルな政策フォーラムから出された提言を、ローカルなレベルで人々の生活に変化を生む措置に結びつける取り組みを前進させることである。この結びつきの欠如はシステム全体が直面している問題で、先住民族問題に関する常設フォーラムや持続可能な開発委員会など、彼らの意見を聞くことを目的とする国連の政策フォーラムの大きな弱点として、住民組織からも指摘されている。住民運動には、自分たちの問題を改善してくれない無駄話の場に付き合っている暇はない。要するに国連システムは、参画と良好なガバナンスという美辞麗句を謳い、体裁を繕うだけのために端役扱いで住民組織を呼び入れるのではなく、住民組織を政治的プロセスに関与させ、彼らが政府間意思決定に意味のある影響を及ぼせるようにする必要があるのだ。

とても無理な相談だと思えるだろうか? だが、希望はある。国連システムが取り組む主要問題の一部に関しては、こうした原則がすでに実践に移されつつあるからだ。食糧のグローバルガバナンスはその一例である。2007年後半の食糧価格危機を機に、小規模食糧生産者の組織と関係を構築する政治的機会が生まれてきた。こうした組織は1996年と2002年に行われた世界食糧サミット以来、ネットワークを広げ、政策フォーラムへの介入能力を蓄積してきている。2009年には、こうしたネットワーク組織からの先例を見ないほど質の高い意見を取り入れた革新的かつインクルーシブ(包摂的)なプロセスを通じて、食糧農業機関(FAO)の世界食糧安全保障委員会(CFS)の改革についての協議が行われた。その結果、「新生」CFSが誕生し、議論の枠組み作りに政府以外の関係者の関与を認めた年間プロセスに、市民社会が――食糧不安に最も影響を受ける人々を代表する組織を中心として――全面的に参加することになったのである。このプロセスは、国、地域及びグローバルレベルのマルチアクター型の政策の場を、双方向に結びつけることを目指している。2010年10月に活動を開始した新生CFSでは、各国政府や国連職員の意見と並んで住民組織の声が強く明確に届いている。より正当なグローバルガバナンス慣行に向かう変化は必要であるだけでなく、可能であり、現実に起きているのである。

(注)
(i) 一例は、農業助成金の削減や廃止を訴える米国や欧州連合地域の近視眼的なNGO運動である。これに対して南側の小規模農業者組織は北の兄弟組織と連帯し、農業に対してはその多機能的役割とそれが生み出す共通善に助成を行うべきだという、もっと洗練された立場をとっている。すなわち、現在のような工業的農業生産や農企業に管理される食品供給行程(「フードチェーン」)ではなく、持続可能な家族農業を助成すべきだということである。
(ii) たとえば、欧州連合と西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の経済連携協定交渉で、後者は主にROPPAの要請にもとづき、欧州から「投売り」される農産物によって域内の食糧生産者が弱体化しないよう、地域市場を適切に保護することを強く主張している。
(iii) 国連システムと住民運動との関係構築に関する基本的原則は、最近刊行された次の資料にあげられている。Strengthening Dialogue: UN Experience with Small Farmer Organizations and Indigenous Peoples (Nora McKeon and Carol Kalafatic, UN NGO Liaison Service 2009). http://www.un-ngls.org/spip.php?page=peoplemovementsで閲覧可能。