国連アカデミック・インパクトによせて

潘基文
国連事務総長

国際連合の活動を強化するにあたって、学術機関は非常に大切な役割を担っています。地球規模の課題に対する革新的な解決策の探求は、実験室やセミナー室、講堂、カフェテリアでの気軽な集まりなど大学構内で始まることがよくあります。また、機会均等、相互理解、開かれた探究という学術研究の原則は、平和、開発、人権という国連のグローバルな使命の核にある原則でもあります。世界の組織である国連と学術界とは現在もすでに良好かつ密接なパートナーでありますが、この関係をさらに深める余地も大いにあります。その可能性と、人権、対話、持続可能性などを包含する普遍的な10原則が、「国連アカデミック・インパクト(UNAI)」というこの新たな取り組みの基礎をなしています。

企業の社会的責任については、これまでも盛んに議論されてきました。今日ではそれに加えて、「知識の社会的責任」というさらに強力な文化が現れつつあります。これはまさに国連アカデミック・インパクトが歓迎し、奨励しようとする精神です。私たちは、現代が抱える一国の利害にとどまらない複雑な問題についての知識を若者たちに与え、グローバルな物の見方とより鋭敏な国際市民感覚を育てたい、学生と教員が学んだことを教室の外へも伝え、友人や家族やコミュニティに広げていけるようにしたい、そして、高等教育機関から生まれた構想や提案を国連機関を含めたグローバルな議論の場に取り入れたいと考えています。すなわち、国連アカデミック・インパクトの取り組みを通じて、変化を生み出すための「知のムーブメント」を推進していきたいのです。

国連は引き続き新しいパートナーに門戸を開いています。学術界の学識と関与が人間の幸福を目指す私たちの活動にどれほど役立つか、その成果が特に待ち望まれるところです。すでにこの取り組みにご参加いただき、国連の目標を支援する熱意を示してくださった80余カ国の400を超える機関の皆様を歓迎いたします。全ての人々のためのより平和で豊かな、かつ公正な世界を築くための私たちの取り組みに、この学術パートナーシップが大きく寄与することを期待しています。