2012.02.07

国連アカデミック・インパクト(UNAI)の現状と動向:赤阪清隆 国連広報担当事務次長に尋ねました

2010年11月に国連アカデミック・インパクト(UNAI)が正式スタートしてから1年あまりが過ぎた2011年12月半ば、このイニシアチブを統括する国連広報局の赤阪清隆事務次長が東京・渋谷の広報センターに立ち寄りました。国連本部ニューヨークで広報局長を務め、UNAIを推進する赤阪次長、公務での一時帰国というチャンスを捉えてUNAIについて尋ねました。

 

Q:国連アカデミック・インパクト(UNAI)の発足について簡単にご説明下さい。

 

A:国連は昔からいろいろな形で教育機関とパートナーシップを結んでおり、様々なプログラムで大学関係者からご協力をいただいています。まとまった形で国連の広報局と世界の大学を結び、組織的なネットワーキングを行っているのがアカデミック・インパクト(UNAI)です。

アメリカのファーレー・ディキンソン大学のマイケル・アダムズ学長が国連との組織的な連携を提案されたのが始まりで、非公式な形でUNAIをスタートさせたのが2008年の後半です。ファーレー・ディキンソン大学のウェブサイト内に「アカデミック・インパクト」というサイトが立ち上がり、そこから参加申し込みをするようになっていました。この時点では国連総会からの直接のマンデート(委任)があったわけではありませんし、予算もついていませんでした。ただ、広報局は「教育を通じて国連の活動について伝える」というのが職務なので、その一環としてこの活動を行っていました。そうこうしているうちにUNAIプログラムに賛同する大学が増えてきた、というわけです。

 

Q:「賛同」というのは具体的にどういうことですか?

 

A:高等教育機関が国連憲章や人権などを含む10の原則のいずれかへのコミットメントを表明し、教育を通じて国連に協力する、という基本的なことです。今まで国連に対する協力をしている機関は何の問題もなくこのプログラムに参加することができます。追加的な義務はありません。ただ年に一回、国連の活動に関連する行事、例えばセミナーを開くとか、模擬国連を行うなど、大方の大学がすでに行っていることを実施していただければよいのです。参加費などの財政的な負担はありません。そういうこともあって、どんどん参加機関が増え、2010年の秋に上海で最初の会議を開いた頃には参加メンバーが400ほどになっていました。この上海会議をきっかけに中国や韓国からの参加もぐっと増えました。

 

Q:日本からの参加はいかがですか?

 

A:私が日本に来る機会があった時に日本の大学関係者にも声をかけましたところ、九州大学、明治大学、早稲田大学、中央大学の4大学がまず参加を決定してくださいました。日本からの参加は現時点で10大学です。

 

Q:UNAIに参加することで大学にはどのようなメリットがありますか?

 

A:国連と結ぶことで、大学が世界に開かれていることを関係者にアピールすることができますし、同じような研究をしている他大学から知識を得ることができます。今は760を超える世界各国の機関が参加していますが、同じ分野の研究を行っている大学が意見交換できるのは大変なメリットだと思います。

国連側にも、大学から知識を吸収することができるというメリットがあります。国連はとても大きな組織ですが、それ自体が多くの知識を持っているわけではありませんし、リサーチ力もありません。気候変動、貧困、環境、人権、平和と安全保障、あらゆる問題に対処しますが、それぞれの分野に関するハイレベルな知識をベースに活動すべきである、と以前から痛感していました。たとえば、国連の専門機関である世界保健機構(WHO)が狂牛病対策を提唱するときには外部の研究機関から知識を借りるわけですが、UNAIはそういう連携の助けになります。

 

Q:国連が掲げるミレニアム開発目標(MDGs)との関係が深いように思いますが、UNAIはMDGsの達成を助けるための取り組みとして発足したのでしょうか?

 

A:MDGsはたしかにUNAIの10原則に含まれていますし、参加大学には貧困撲滅などを含む活動へのサポートをお願いしています。しかし、UNAIは特定の分野にしぼっていませんし、10原則のすべてを対象としたネットワーキングを強化するためのメカニズムだと理解しています。MDGsは2015年を達成目標にしていますが、一方、UNAIはそのような期限を設けていません。

 

Q:期間的にも組織的にも非常にオープンなプログラムのようですが、700以上ある日本の大学のうち参加が10というのは少なくありませんか?

 

A:そうですね。もう少しご理解をいただく必要があるのですが、日本の大学は手続き上の難しさがあって参加しづらいのかもしれません。手続きそのものはいたって簡単で、総長が「ああ、これなら参加しましょう」と言って申込書に記入すればよいのですが、組織としての判断が重視される日本ではなかなかそうはいかないようです。

 

Q:参加機関を増やしたいとお考えですか?

 

A:増えるのは時間の問題だと思いますよ。良いネットワークですから。ただ、大学数が現在760を超えており、国連内でプロジェクトをまとめて連携を助けるための広報スタッフが不足気味です。今の財政状況では増員が難しいので、広報局内部でのスタッフ再編を検討しています。ですから、今は参加機関を増やすことより、体制整備とプログラムの充実が重要だと考えています。

 

Q:発足後の一年間でメンバーがほぼ倍増したわけですが、内容的にもかなりの成果が見られたのでしょうか?

 

A:はい、期待以上ですね。今年はルーマニアや韓国で会議が開かれましたし、国連の担当者は引っ張りだこです。日本においても中央大学のご協力でUNAIの日本語サイト(http://www.academicimpact.jp ) ができましたが、英語サイト(http://outreach.un.org/unai )もご覧いただきますと、成果や現行プロジェクトについてさらに詳しい情報が載っています。Facebook (http://www.facebook.com/ImpactUN )での意見交換も活発で、特にASPIREという学生間ネットワークが盛んなようです。ニュースレターもありますし、是非参考になさってください。

 

Q:最後に一言、国連アカデミック・インパクト(UNAI)とは何でしょうか?

 

A:国連と世界各国の大学とのつながりを深めるためのネットワークです。是非ご参加ください。