2022.09.16

東京都立大学大学院理学研究科の野村琴広教授が研究発表「ポリエステルの分解・ケミカルリサイクルを実現する高性能触媒を開発 ~植物油から化学品を合成する技術を適用、プラごみ問題の解決に道~」を公開しました。

1.ポイント

  • プラスチックごみ問題(プラごみ問題)の解決に向けて、ポリマーを効率良く原料へ変換する革新的な手法開発が切望されている。
  • ポリエステルとアルコールを混合・加熱するだけで、完全に原料へ分解する2種類の高性能触媒(酸化カルシウム触媒とチタン触媒)を開発した。この触媒により、植物油から付加価値の高い化学品の合成も可能となった。
  • 入手が容易で安価なポリエステル分解触媒により、ケミカルリサイクルの飛躍的な発展および高性能触媒によるプラごみから付加価値の高い化学品への変換など、関連研究の活性化が期待できる。

JST 戦略的創造研究推進事業(以下、CREST)および国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)(以下、SICORP)において、東京都立大学 大学院理学研究科の野村 琴広 教授らの研究グループは、ポリエステルや植物油から有用化学品を効率良く合成する2種類の高性能触媒を開発しました。特に、ポリエステルとアルコールを混合・加熱するだけで、原料への変換を実現したことは大きな成果と言えます。
プラごみ問題は、早期に解決すべき重要課題ですが、現状はほとんどが燃料として再利用され、原料として再利用(ケミカルリサイクル)される割合はわずかです。カルボン酸とアルコールとの反応による「エステル結合」の繰り返しからなるポリエステルは、ペットボトルや衣料などに利用されています。このエステル結合を完全に切断すれば原料に変換できますが、従来法では高温で過剰な酸・塩基などが必要とされるため、シンプルで安価、環境負荷の低い手法が切望されていました。
本研究グループは、非可食の植物油から、洗剤・化粧品やポリマーの原料など付加価値の高い化学品(ファインケミカルズ)の合成を可能とする触媒開発に取り組み、2種類の高性能触媒(酸化カルシウム触媒とチタン触媒)を見いだしました(SICORPの研究チームによる成果)。さらにこの触媒が同じ化学反応(エステル交換反応)であるポリエステルの分解にも有効で、ほぼ100パーセントの選択率で原料に変換できることを明らかにしました(CRESTの研究チームによる成果)。
酸化カルシウムは入手が容易で安価であり、工業的な使用実績も豊富です。今回の着想のように、植物油のエステル交換の触媒をそのままポリエステル分解触媒に適用した研究例はなく、安価で環境負荷の低いプロセス開発への展開が期待されます。また、触媒性能に優れるチタン触媒は幅広い応用展開が可能で、植物油からポリマー原料や各種精密化学品の合成、プラごみから付加価値の高い化学品への変換(アップサイクル)も期待されます。

2.今後の展開

酸化カルシウム触媒は入手容易で安価であり、工業的に使用実績が豊富で、ポリエステルをほぼ100パーセントの選択率で原料に変換できます。この着想を基盤に、サーキュラーエコノミー(資源循環型社会)の実現に向けた研究開発の加速が期待されます。
また、元素戦略上有利な高活性チタン触媒は適用範囲が広く、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカプロラクトン(PCL)などの各種ポリエステルでもその有効性を確認できました。各種アルコールが使用できるため、使用済みのポリマーから原料のみならず高付加価値品への化学変換(アップサイクル)が可能になります。また、植物油から高付加価値品の製法の重要技術として期待されます。
本研究成果は、バイオベースケミカルの合成における重要な手法への展開と使用済みポリマーのケミカルリサイクル・アップサイクルへの展開が期待されます。

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詳細は以下のWebサイトからご覧ください。

https://www.tmu.ac.jp/news/topics/34998.html