2022.02.09

「海洋プラスチック等海岸漂着物の市民参加による調査手法の 開発に関する研究」

09 UNAI_2020_jp marinewreckage.pdf

原則 6:人々の国際市民としての意識を高める

原則 9:持続可能性を推進する

<要旨>

岩手県は2019年12月に岩手県海岸漂着物対策推進地域計画を策定し具体的な取り組みを進めている。この一環として、本研究チームは海岸漂着物等の状況の把握とともに、沿岸の小学校で海ごみを利用した環境教育プログラムを策定して、試行した。また市民による海岸漂着物等の調査を可能にする、スマホを利用した簡便な情報活用システムを開発した。

1.研究概要

海洋プラスチックごみ対策は、全地球的な課題となっているにも拘らず、海岸漂着物等の現状が十分に把握できていないのが現状である。この現状を改善し、計画的、効率的な海岸漂着物の回収除去を行うためには、海岸漂着物等の分布、量という基礎的な情報を得る必要がある。しかし、岩手県の海岸線は長く、リアス式の凹凸もあり、多くの人手と時間、コストが必要となる。本研究は、岩手県の海岸における海岸漂着物の実態の把握、及びスマホを使用して一般住民の協力を得て海岸漂着物等の場所や量を把握するための低コストの調査手法を開発する。

2.研究内容と成果

1⃣ 海岸漂着物の実態調査

・調査票作成:海岸漂着物の調査方法について既往研究を調査した。この結果、様々な調査手法があり、それぞれに一長一短があることが判明した。既存研究から海岸漂着物調査票を数案作成し、現地調査で使用し、内容や記入の容易さなどを検討し、標準的な調査票を作成した。

・現地調査:岩手県内の代表的な海岸延40か所で海岸漂着物の現地調査を行った。今年度は、海ごみの漂着状況の全般的な概要を知ることを主眼とし、目視によって漂着物の状況や種類を把握し、正確なごみの量の把握は行わなかった。岩手県内の海岸はおおむねきれいで、漂着物の多くは海藻等の自然物で、前年に襲来した台風による流木が多くみられた。また、人工物ではプラスチックが多く、中国、韓国からの漂着物も見られた。

海岸漂着物調査位置(左図)、野田村 十府ヶ浦海岸の海ごみの状況(右写真)

・学校における海ごみを使った環境教育の試行:既存文献等を参考にして海ごみを使用した環境教育プログラムを開発し、野田村立野田小学校、宮古市立崎山小学校、陸前高田市立広田小学校の3校で試行した。
海ごみ環境教育プログラムは、海岸漂着物の回収、分類を行うことによって、海岸漂着物が自分たちの生活と関連が深いことに気づき、生活様式を改めることを考えるきっかけとなることを目指した。
各学校での評価は高く次年度も実施したいとの意向が示されている。活動の結果は、環境省、岩手県に報告するとともに、民間団体JEANが行っている国際海岸クリーンアップに参加し報告した。

陸前高田市立野田小学校での環境教育

2⃣ スマホ対応システムによる調査手法の開発

調査手法の開発にあたり、①の実態調査を踏まえた上で、特定外来生物の分布調査に用いたスマホ対応システムに基づいて行政ニーズを整理した。その結果、海ゴミの種類を把握する必要があること、市民による清掃活動の実態が十分に把握できていないことが、主要課題として挙げられた。そこで、以下の3点をシステムの設計方針として定めた。すなわち、調査者・対象等を問わず利用できる汎用性を考慮すること、海岸漂着ごみ調査を考慮すること、収集データを可視化することである。その上で、スマホ対応システムに求められる機能を整理した。

この主要機能を含むシステム構成は、以下の図の通りである。調査参加者或いは活動報告者(団体)を利用者として想定し、目的に応じて機能を使い分けることとした。

システム構成図

3⃣ スマホによる調査の試行実験

試行実験は、①の実態調査で得た画像データをスマホ対応システムに登録するとともに、9名の学生にシステムを試用してもらい、5段階評価と自由記述を含むアンケートで使い勝手を訊いた。その結果、7人が主要機能・各調査機能において評価4を超える概ね高評価を与えた。調査報告に関しては「報告をマップ上で見られるのは分かりやすい」との肯定的な意見があった。一方で、「地図をスマホで見た際に画面いっぱいに広がりスクロールしにくい」「操作を行う上でもう少し補足説明があるとわかりやすい」といった改善案も提示された。

これらの報告を基に、研究グループで協議した結果、次のような点が指摘された:「システムの機能によっては海岸ごみ以外にも利用可能」、「用語の定義や入力項目の定義不足」「位置情報や日時は自動入力ではなく編集できるように」、「集計したデータを分析するための工夫が必要」、「詳細報告では集計したデータをどう整理するかが課題」。

以上より、スマホ対応システムを用いた調査手法が実現可能であることを確認できた。しかし、実際に市民に提供して運用をするためには、使い勝手を見直す等、さらなる改善が必要である。

3.今後の具体的な展開

1⃣ 海岸漂着物の実態調査

岩手県内の主要な海岸の状況はおおむね把握できたが、他県の状況との比較を行う必要がある。学校における海ごみを使った環境教育プログラムについては、小学校バージョンはおおむね完成したが、中学校、高校用のプログラム開発を引き続き行う必要がある。また、河川におけるプログラムの開発も必要である。

2⃣ スマホ対応システムによる調査手法の開発

スマホを使用した一般の市民が調査可能な簡便な情報システムの基礎的な開発は完了したが、より使い勝手の良い改善をさらに行う必要があり、次年度以降も引き続き検討を行う。